大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和50年(ワ)3053号 判決

主文

(一)  被告は原告に対し、金一六万六、二五〇円およびこれに対する昭和五〇年四月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告のその余の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告、その余を被告の各負担とする。

(四)  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金四七万五、〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年四月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和四九年七月一二日午後五時五〇分頃大型貨物自動車(千一一か二五〇三号、以下「加害車」という。)を運転中、埼玉県本庄市照若町二五一番地先交差点(以下「本件交差点」という。)において、赤信号を無視して右交差点に進入した過失により、折柄同交差点に青信号に従つて進入した訴外阿久沢曻三運転の普通貨物自動車(群一一い二二六一号、以下「被害車」という。)に衝突して、被害車を破損させた。

2  原告と被害車の所有車である訴外藤井茂之とは、昭和四九年七月一日被害車につき、保険金額を金五〇万円、保険期間を右同日から昭和五〇年七月一日までとする車両保険契約を締結した。

3  被害車の本件事故当時の価額が金五〇万円であつたので、原告は、昭和四九年九月二六日訴外藤井に対し、スクラツプ代金二万五、〇〇〇円を控除した残額金四七万五、〇〇〇円を支払つた。

4  よつて、原告は被告に対し金四七万五、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五〇年四月二三日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁および被告の主張

請求原因1のうち、被告の過失を否認し、その余の事実を認め、同2および3の事実は不知。

本件事故は、被告が本件交差点の手前で信号待ちのため一旦停止したのち青信号に従つて発進したところ、訴外藤井の被用者である同阿久沢が赤信号を無視して同交差点に進入したために発生したものであり、被告には何らの過失もない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  昭和四九年七月一二日午後五時五〇分頃埼玉県本庄市照若町二五一番地先交差点において、加害車と被害車とが衝突し、被害車が破損したことは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第四号証および調査嘱託の結果によれば、本件事故現場付近の道路状況がほぼ別紙現場見取図記載のとおりであり、路面はアスフアルト舗装され、本件事故当時雨のため濡れていたこと、本件交差点が信号機により交通整理がなされており、車両に対する信号機の表示時間は、別紙現場見取図記載〈甲〉の信号機のそれが、青五二秒、黄四秒、赤四三・五秒(ただし最初の一〇秒は右折可の青矢印あり、その後二・五秒および最後の二秒がいわゆる全赤)であり、同図記載〈乙〉の信号機のそれが赤七〇・五秒(ただし赤になつて五八秒後―〈甲〉信号機の青矢印の開始と同時―から左折可の青矢印一〇秒あり、その後二・五秒および最初の二秒がいわゆる全赤)、青二五秒、黄四秒であり、同図記載〈丙〉信号機のそれが、左折可の青矢印がない以外右〈乙〉信号機のそれと同一であること、本件事故直後、本件交差点の路面には、別紙現場見取図記載のとおりのスリツプ痕があつたことが認められる。また、前顕甲第四号証(一部)、証人高安和男、同阿久沢曻三(一部)の各証言、被告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、別紙現場見取図記載の、藤岡方面から伊勢崎方面に向つて左側の部分、高崎方面から熊谷方面に向つて右側の部分にあたる本件交差点付近の歩道の外側には建物があつて、本件交差点から高崎方面寄りの道路と藤岡方面寄りの道路とは、相互に見通しが不良となつていること、被告が、ライトバンに追従して高崎方面から熊谷方面に向い、左側の車線を進行して本件交差点付近に至り、先行車が信号待ちのため停止線付近に停止したので、追突を避けるため右折車用である右側車線に入り、別紙現場見取図記載〈イ〉付近に停止し、直ちに発進できる態勢で信号待ちをし、その後熊谷方面に直進するため発進して、同図記載〈ロ〉付近で〈2〉付近を走行する被害車を認め、急ブレーキをかけたが、停止するとほとんど同時位に〈×〉付近で加害車の右側角付近と被害車の右前角付近とを衝突させたこと、一方、訴外藤井の被用者である同阿久沢は、被害車を運転して藤岡方面から伊勢崎方面に向い、時速四〇ないし四五粁の速度で本件交差点付近に至り、同図記載〈1〉付近で加害車を認め、急ブレーキをかけたが、〈×〉付近で前記のとおり加害車に被害車を衝突させたことが認められる。右認定に反する甲第四号証中の同図記載〈2〉付近で加害車を認めたとの立会人阿久沢曻三の指示説明部分および証人阿久沢曻三の右〈2〉付近で加害車を認めて急ブレーキをかけたとの供述部分は、前記被害車の速度、同車のスリツプ痕と〈2〉との距離関係から判断して、空走距離が余りにも短いためたやすく措信しがたく、むしろ右事実からは〈1〉付近で急ブレーキをかけたものと推認するのが相当である。

ところで信号機の表示について、甲第四号証には、別紙現場見取図記載〈1〉付近で〈丙〉の信号機の表示が黄になつたとの立会人阿久沢曻三の指示説明の記載があり、証人阿久沢曻三は右同旨の供述をしており、これに反し、被告本人は同図記載〈甲〉の信号機の表示が青に変つてから〈イ〉付近を発進した旨供述し、さらに証人高安和男は、信号待ちで停止していた際同図記載〈乙〉の信号機をみており、その表示が赤に変ると同時に加害車が発進した旨供述している。そこで、この信用性について検討するに、訴外阿久沢の右説明に従えば、別紙現場見取図記載〈イ〉と〈×〉との距離、〈1〉と〈×〉との距離および被害車の速度から考えて、加害車が〈乙〉信号機の表示が未だ青を表示している段階で〈イ〉を発進しなければ本件衝突事故は発生しないものと推認され、これでは被告が〈イ〉付近に一旦停止した意味がなくなることとなり、いかにも不合理であつてたやすく措信しがたい。一方、被告本人の右供述は、加害車に同乗していた証人高安和男の供述とも異り、著しく被告に有利なものである点でたやすく措信しがたい。証人高安の右供述によれば、〈イ〉付近で直ちに発進できる態勢で信号待ちをしていた被告が、〈乙〉信号機の表示が黄から赤に変るや直ちに(従つて〈甲〉信号機の表示が赤のうちに)発進したこととなる一方、訴外阿久沢は、〈丙〉信号機の表示が黄から赤に変つて間もなく急ブレーキをかけたこととなる。信号待ちのため停止していた車両が交差する道路に対する信号機の表示を見てそれが赤に変るや直ちに発進することがあること、また青信号に従つて進行していた車両が、対面信号が黄に変つてもそのまま交差点を通過しようとし、黄から赤に変り、交差する道路の車両通行が始つてからブレーキをかけることがあることは異とするに足りない事態であるということができるので、右証言は措信するに値するものというべきである。従つて、右証言および前記認定事実により、被告は、未だ〈甲〉信号機の表示が赤であるのに加害車を発進させて交差点に進入した過失があり、一方訴外阿久沢にも、〈丙〉信号機の表示が黄に変つたのにそのまま交差点を通過しようとしたため、途中で同信号機の表示が赤に変り、加害車を認めて急ブレーキをかけたが及ばずスリツプして交差点に進入した過失があるものと認める。

二  原本の存在および成立に争いのない甲第一、第二号証、成立に争いのない同第三号証および弁論の全趣旨によれば、訴外藤井が被害車の所有者であるところ、同訴外人は、昭和四九年七月一日原告との間で、被害車につき保険金額を金五〇万円、保険期間を右同日から昭和五〇年七月一日までとする車両保険契約を締結したこと、本件事故当時の被害車の価額が金五〇万円であるところ、本件事故による破損を修理するためには金八八万九、九〇〇円を要すること、被害車の本件事故後のスクラツプとしての価額が金二万五、〇〇〇円であること、原告が右保険契約に基づき、昭和四九年九月二六日訴外藤井に対し、被害車の時価金五〇万円からスクラツプとしての価額金二万五、〇〇〇円を控除した残金四七万五、〇〇〇円を支払つたこと、が認められる。

右事実によれば、本件事故により訴外藤井が蒙つた損害は金四七万五、〇〇〇円であるというべきところ、前記のとおり、訴外藤井の被用者である同阿久沢にも過失があるので、被害者側の過失として、前記本件事故態様に鑑み、六五パーセントの過失相殺をすることとし、被告に請求しうべき損害は金一六万六、二五〇円であると認める。従つて、訴外藤井に対して前記支払をした原告は、被告に対し右金一六万六、二五〇円の請求権を有することとなる。

三  以上述べた理由により、原告の本訴請求は、被告に対し金一六万六、二五〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年四月二三日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正義)

別紙 現場見取図

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例